大阪家庭裁判所岸和田支部 昭和50年(家イ)235号 審判 1976年2月23日
申立人 高木宏司(仮名) 外一名
相手方 高木宏介(仮名)
主文
申立人両名と相手方との間に親子関係が存在しないことを確認する。
理由
第一本件申立
申立人らは主文同旨の調停申立をなし、申立の実情として、
「申立人高木宏美法定代理人田村チズ子は、先夫たる相手方と昭和二八年に別居し、沖縄県○○に至り、昭和二九年一月現夫田村良盛と同居するに至つた。そして、二人の間に、申立人宏司(昭和三〇年三月二七日生)、同宏実(昭和三三年四月六日生)の両名が出生した。しかし、当時は、上記田村良盛も先妻と離婚してなかつたため、同人戸籍に入籍することができず、申立人宏司の幼稚園入園手続の必要に迫られ、昭和三五年一月五日やむなく相手方の戸籍に入籍した。その後、昭和四一年五月四日田村良盛と先妻との間に協議離婚が成立し、田村チズ子と相手方との間に昭和四四年三月五日協議離婚が成立し、昭和四七年一月五日田村良盛とチズ子とは婚姻届を提出受理されたものである。以上の経過から明らかな如く、申立人らはいずれも良盛とチズ子との間の子であるのにもかかわらず、戸籍上先夫たる相手方の子であることとなつているのでこれが訂正のため本申立に及ぶものである」と述べた。
第二当裁判所の判断
那覇家庭裁判所石垣支部調査官玉那覇秀治、東京家庭裁判所調査官植木満の各調査の結果、相手方に対する当裁判所の審問の結果、戸籍謄本三通、戸籍抄本二通、を総合すると、申立人らが申立の実情として述べる事実は全てこれを認めることができ、さらに
(1) 申立人両名が良盛とチズ子との間の子であることについて良盛、チズ子、申立人両名、相手方の何れも異論がないこと、
(2) チズ子、申立人宏実はいずれも沖縄県に在住中のもの、申立人宏司は東京で受験勉強中のものであつて、いずれも心ならずも本件調停期日に経済的理由により、出頭できないこと、そのため相手方のみは出頭したが本件調停期日において合意は成立しなかつたこと、
(3) 申立人ら、相手方のいずれも本件調停期日において合意を成立させることはできないが、何らかの方法で本件申立がいれられることを切に望んでいること
を認めることができる。
ところで、家事審判法二四条の審判の対象となるべきものは乙類審判事項を除いた家庭に関する一般の調停事件である(家事審判法二四条二項)が、同法二三条審判の対象となるべき事件について当事者の一方が何らかの事由により調停期日に出頭しえないため、同条の要件である合意が成立しない場合において、同法二四条の審判をなしうべきか否かについては積極消極の見解の対立があるが、当裁判所はこれを積極に解するものである。
すなわち、法二四条の規定自体からは乙類審判事項を同条の審判対象から除外した以上の限定を発見することはできないし、元々、法二四条審判は当事者又は利害関係人の異議申立により失効してしまうという弱い効力しか有していないことを考えると関係者の利益を実質的に害することもない。そして、何よりも日常の家事調停の現実がこれを積極に解すべく要求しているのではないかと考えられるからである。
すなわち、法二三条調停事件において、当事者の一方が経済的な理由その他己むをえざるものと認められる事由により、己むなく調停期日に出頭しえない場合がままあるが、かような場合、一律に法二四条審判をなしえないものとすることが果して調停制度の正しい運用につながるものであろうか。それは、概して当事者の希望にも反するのみならず、結果として家裁の利用を必要以上に不便且つ複雑なものにし一般国民の家裁に対する要求にも背反して来ることがあるものと考えられる。家庭裁判所はかような場合、その持てる調査機構を駆使して事実関係を究明した上、当事者間の実質的合意の存在とそれが真実に合致することの確実な心証の上に立ち、法二四条審判の積極的運用によつて、かようなケースに対して対応すべきであろう。けだし、法解釈上法二四条審判の可否につき積極消極の二つの見解が法論理的に成立する本件の如き場合には、現在における家事調停の運用の現実と当事者の多くの家裁に対する要望をも踏まえた上で、可能なる限りこれらに応えていく解釈の方向こそが、立法の不備をも補う現実的妥当な解釈であると考えられるからである。
そうだとすれば、本件において、上記認定事実によれば当事者双方は等しく申立人ら不出頭のままで審判をして貰いたい旨要望し、調査の結果に照らしても事実は明白でその原因事実につき争いがない上当事者間にも実質的合意も担保されていることが明らかである。
かようにして本件においては、法二四条審判の対象となしうるものと解した上、審判手続に移行し審判を行いうるものと解される。
よつて、以上の事実関係に則り、当裁判所は調停委員田代煌、同小川小留の各意見を聴いた上、家事審判法第二四条に則り主文のとおり審判する。
(家事審判官 秋山賢三)